すべての素数を使った美しい式《オイラー積》

Point

素因数分解を利用することで、全ての素数を使った式が作れる  


今回の記事では、私が好きな数式の1つである以下の式について解説する。

  
\begin{align}
\Large \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s} \ = \ \prod_{{p: \textbf{素数}}}\ \frac{1}{1-\frac{1}{p^s}}
\end{align}


この式は「オイラー積」と呼ばれている。左辺には全ての自然数が、右辺には全ての素数が含まれており、それらが等号で結びついている。この一見すると不思議な式をわかりやすく証明していく。



まずは観察する

はじめに、上の式の特徴をさらっと紹介する。まず左辺は、 \sum_{n=1}^\infty とあるが、これは1から∞までの全ての自然数を、右横の式に代入して足し上げることを意味する。具体的に書き下すと次のようになる。

  
\begin{align}
\large \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s}\ =\ \frac{1}{1^s}+\frac{1}{2^s}+\frac{1}{3^s}+\cdots 
\end{align}


次に右辺について見ていく。  \prod という記号は見慣れないかもしれないが、これは要は  \sum の掛け算バージョンである。つまり、右辺は  p に全ての素数を代入し、それらの積を計算することを意味する。具体的に書き下すと次のようになる。

  
\begin{align}
\large \prod_{{p: \textbf{素数}}}\ \frac{1}{1-\frac{1}{p^s}}\ =\  \frac{1}{1-\frac{1}{2^s}} \cdot \frac{1}{1-\frac{1}{3^s}} \cdot \frac{1}{1-\frac{1}{5^s}} \cdots    
\end{align}


両辺にある  s について説明していなかったが、これは1より大きい実数を表す。 s が1以下では両辺が無限大となってしまい、式に意味がなくなってしまう (無限大になる式ならどんな式でも等号で結べてしまうことになる)。



オイラー積を証明する

式の特徴が分かったところで、証明に移ろう。ここで、単純化のため  s=1 と置いて  s を消去してしまおう。前述のように  s=1 としてしまうと両辺が無限大となってしまい、証明が厳密ではなくなってしまうが、 s を残した場合でも証明の考え方自体は変わらないのでさほど問題はない。


今回は左辺から右辺への導出を行う。左辺を書き下すと

  
\begin{align}
\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n} = \frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\cdots
\end{align}


のように分母に全ての自然数が登場する。


ここで、証明したい式の右辺には素数が含まれていた。そこで、自然数から素数を作り出す方法が何かないか考えてみると素因数分解が思いつく。それでは、上の式の分母を素因数分解してみよう。

  
\begin{align}
\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n} = \frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{5}+\frac{1}{2\cdot3}+\cdots
\end{align}


当然、 +\cdots 以降も分母は素数の積で表される。つまり、分母には全ての素数の掛け算のあらゆる組み合わせが登場することになる。そこで、次のように式変形ができるだろう。

  
\begin{align}
\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n} &= \frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{5}+\frac{1}{2\cdot3}+\cdots\\
&=\left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\cdots\right) \left(1+\frac{1}{3}+\frac{1}{3^2}+\cdots\right) \left(1+\frac{1}{5}+\frac{1}{5^2}+\cdots\right) \cdots
\end{align}


2行目の式の後半は省略しているが、括弧の中の分母には素数が入っている。括弧を外して展開してみるとわかってもらえると思うが、このように式変形すれば、全ての素数の掛け算の組み合わせを網羅することができる。


さて、それぞれの括弧の中に注目すると、これらは等比数列となっている。初項が1で公比  r |r|<  1 のときの無限等比数列の和は  \frac{1}{1-r} と表されるので、これを使って式変形を進めると

  
\begin{align}
\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n} &= \frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{5}+\frac{1}{2\cdot3}+\cdots\\
&=\left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\cdots\right) \left(1+\frac{1}{3}+\frac{1}{3^2}+\cdots\right) \left(1+\frac{1}{5}+\frac{1}{5^2}+\cdots\right) \cdots\\
&=\frac{1}{1-\large{\frac{1}{2}}} \cdot \frac{1}{1-\large{\frac{1}{3}}} \cdot \frac{1}{1-\large{\frac{1}{5}}} \cdots\\
&=\prod_{{p: \textbf{素数}}}\ \frac{1}{1-\large{\frac{1}{p}}}
\end{align}


となる。最後の式は、まさに最初に見せた式に  s=1 を代入した形となっているのがわかるだろう。元の式のように  s が分母の肩に付いた場合でも、全く同じように素因数分解等比数列の公式を使えば証明することができるので、ここでは割愛する。


以上がオイラー積の証明である。カラクリがわかってから見返してもやっぱり不思議で美しい式である。この式を気に入ってもらえる人が一人でも増えたら嬉しく思う。