Blu-rayがDVDよりも大容量な理由《光の波面》

Point

・波面とは、波の位相が揃った面のこと
・光は波面に対して垂直な方向に進む
・光の波長が短いほど集光点を小さくできる  


今回は、回折シリーズの3回目として波面と呼ばれるものについて取り上げる。
光には波面という性質があり、この波面の形を調べると、光が次にどのような動きを示すのかを予想することができる。特に、この考え方をレンズに対して適用すれば、波としての光が発散や収束する理由を上手く説明することができる。さらにこの考え方を発展させれば、Blu-rayディスクがCDやDVDよりも大容量である理由についても説明することが可能となる。


光の波面とは

まずは波面とは何かについて見ていく。図1に、横向きに進む光の内部を拡大したイメージ図を示す。光は進行方向とは垂直な方向に幅を持っており、この幅の分だけ、電場(と磁場)が空間的に広がって存在している。ここで、それぞれの電場がもつ位相に注目したとき、位相が同じ点をつなげてできる面のことを「波面」と呼ぶ。

図1:光の波面。山と谷の波面のみ示した。
図1では、点線を用いて山と谷での4つの波面を示した。山や谷は特に重要ではなく、それら以外での位相をつなげた面も波面である。また、図では波面が「線」で表されており、「面」ではないと思われるかもしれないが、立体的に考えれば位相をつなげた点の集まりは「面」となることが分かるだろう。今回の場合だと、波面はちょうど図2のように光の断面に現れる。
図2:立体的な光の波面


波面と光の進行方向

波面の正体が分かったところで、次に波面に関する重要な性質を説明する。その性質とは、光は波面に対して垂直な方向に進みやすいというものである。この理由について説明しよう。といっても、これはすでに以前の回折に関する記事で紹介した光の広がりやすさの説明と全く同じになる。復習としてもう一度見ていこう。


図3に、以前の記事で載せた特定の方向に進む素元波どうしの干渉の様子を示す。光の広がりやすさは素元波どうしの干渉によって理解することができる。つまり、図3で上方向の成分は強め合って残る一方、傾きが大きくなるほど素元波どうしは打ち消し合って消えてしまうため、上方向に光が進みやすいということだった。

図3:特定の方向に進む素元波どうしの干渉

ここで、前の記事では特に言及はしていなかったが、図を見ると、横一列に並んだ素元波の中心における位相が3つとも同じとなっている。つまり、このときの波面は素元波の中心(オレンジ色の点)を結んだ横向きの線となる。波面の方向が横向きで、光の進行しやすい方向が上向きなので、確かに2つの向きが垂直な関係になっていることが分かる。 なぜこのような関係になるのかというと、図3に示したとおり、波面に対して垂直な素元波どうしは位相がズレないため、強め合うことができるからである。


波面を歪めると?

ここまでの話では、平面な形をした波面だけを考えてきた。こうした波面が平面状である波を平面波と呼ぶ。光が平面波の場合、上述のように波面と垂直方向に光はまっすぐ進んでいく。それでは、波面が平面ではなく、歪んだ曲面だとしたら光はどう進むことになるだろうか?


図4に、波面の形状が異なる3つの光とそれぞれの進み方を示した。ここで、光は左から右に流れると仮定する。また、黒の点線は波面を表す。
一番左の絵は、波面が平面上にあるため、平面波である。光の進み方を知るには、波面の各点に、波面に垂直な矢印を描くとよい。平面波の場合は、波面の各点で垂直に進む光がすべて同じ右真横に向いている。つまり平面波は右に直進する。
それでは、中央の絵のように、波面が進行方向に対して逆向きに凹んでいた場合はどうなるだろうか。この場合、波面に垂直な矢印を描くと、それぞれの矢印は光の中心に向くことになる。これらの光がそのまま進むと光はある1点で集まることが分かるだろう。つまり、この場合、光は収束する。
右の絵は、波面が逆に進行方向に出っ張った場合を示す。このときは波面に垂直な矢印は外側を向くため、光は発散する。

図4:波面の形状が異なる光の進行方向。点線は波面を表す。


波面を歪める方法

上述の通り、波面が曲面状に歪むと光は収束したり、発散したりする。それでは、どうすれば波面を上述のように歪めることができるだろうか?収束や発散という言葉でピンと来た人もいるかもしれないが、これには凸レンズもしくは凹レンズを用いればよい。


図5に、平面波が凸レンズおよび凹レンズに通過した後の波面の変化を表す。レンズの材料であるガラスは基本的に空気よりも高い屈折率をもつため、ガラス中での光の速度は空気中での光の速度より遅くなる。凸レンズの場合、中心ほどガラスが分厚く、中心から離れるほど薄くなるため、レンズの中心付近を通る光は遅れる一方、中心から離れた光は先に進むことになる。これにより、レンズを通過前に平面上に揃っていた位相にずれが生じ、図5右上のような波面となる。このときの波面形状では、図4で見た通り光は収束することになる。こうした理由から、凸レンズを通過した光は収束するのである。

図5:凸レンズと凹レンズを通過後の波面
凹レンズの場合は逆で、中心ほどガラスが薄く、中心から離れるほど厚くなるため、図5右下のような波面となる。図4より、このときの波面は発散することになる。以上が、レンズによる波面の変化についての解説である。
 光の収束や発散はレンズだけでなく、凹面鏡や凸面鏡を用いても引き起こせる。この場合も、位相の遅れや進みによる波面の変化を考えれば理解することができる。実際に、絵を描いて確かめてみてほしい。


Blu-rayがCDやDVDよりも大容量な理由

最後に、今回の波面の知識を使って、光が収束する際の波長依存性について述べる。さらにそこから、Blu-rayやDVDなどの光ディスクに情報を読み書きするために使われる光の波長の違いが性能にどう関わっているかについて直観的に説明する。


レンズ等を使うと波面は図4の中央の絵のようになり、光は収束する。ここで、波面の各点からやって来る光はある1点(集光点)で収束するように思える。しかし、それぞれの光はあくまでも波面の垂直方向に進みやすいだけで、ある程度の広がりをもっているため、完全に1点には集まらない。つまり、図6のように集光点には幅がある。

図6:レンズによって集光された光

ここで重要な性質として、集光点の幅は用いる光の波長に依存する。言い換えると、レンズ等を使って光をどれだけ小さく収束できるかは、その光の波長によって変わるのである。具体的には、光の波長が小さいほど、集光点を小さくすることができる。その理由を説明しよう。


ここで、前回の記事(光の回折2:光は波なのになぜまっすぐ進むのか - 直観的に理解する科学)で紹介した、波長が短いほど光は広がりづらいという知識を使おう。つまり、波面の各点から生じる光の広がりが大きい場合と小さい場合で集光点の幅がどう変わるのかを考えてみる。
 図7に、波長が長い場合と短い場合での、波面の各点から生じた光を足し合わせたイメージ図を示す。1本1本の光は、波長が長い場合は末広がりになっている一方、波長が短い場合は広がりが小さくほぼ平行になっている。これらの光が重ね合わさると、波長が短いほど集光点の幅が細くなっていることが分かるだろう。

図7:集光点の幅と波長の関係


 光を使って何かに情報を書き込む際には、光を小さく集光できる方が有利である。なぜなら、集光点が細いほど、同じ面積であっても多くの情報を書き込むことができるからである。喩えるなら、ペン先が細いほど細かい字が書けるため、たくさんの文字を紙に書きこめるのと同じである。ということは、用いる光の波長が短いほど記憶媒体の容量を大きくすることができる。
光を使って情報を記録する記憶媒体である光ディスクの中で有名なものとしては、CD、DVD、Blu-rayが挙げられる。それぞれに使われる光の波長は、CDでは780 nm、DVDでは650 nm、Blu-rayでは405 nmである。確かに製品が高性能になっていくほど、波長が短くなっていることが分かる。ちなみにBlu-rayという名前は青色の光(405 nm)を用いていることにちなんでいる。