フレネル係数で遊ぶ3:複素屈折率への拡張

Point

・反射率は、屈折率の差と消衰係数の差がどちらも大きいほど上がる
・消衰係数を考慮すると位相変化が0°および180°以外の値にもなりうる  


フレネル係数で遊ぶ2」までは、屈折率を実数と仮定して話を進めてきた。しかし、屈折率の虚部にあたる消衰係数が大きい物質では、これまでの内容では成り立たなくなる。この記事では、フレネル係数中の屈折率を複素数に拡張した場合に生じる現象について解説していく。


複素屈折率で表現されたフレネル係数

ななめ入射でのフレネル係数に複素屈折率を導入するのは、式が少々複雑になってしまう。一方で、垂直入射の場合( \theta_1=\theta_2=0)は簡単で、単純に屈折率 nを複素屈折率 Nに置き換えてしまえばよい。
つまり、2つの複素屈折率を N_1=n_1+ik_1および N_2=n_2+ik_2とすると、

  \begin{aligned}
\displaystyle\rho&=\frac{N_1-N_2}{N_1+N_2}\\
&=\frac{n_1+ik_1-(n_2+ik_2)}{n_1+ik_1+n_2+ik_2}\\
\\
&=\frac{n_1-n_2+i(k_1-k_2)}{n_1+n_2+i(k_1+k_2)}
\end{aligned}


  \begin{aligned}
\displaystyle\tau&=\frac{2N_1}{N_1+N_2}\\
&=\frac{2(n_1+ik_1)}{n_1+n_2+i(k_1+k_2)}
\end{aligned}


と表される。


複素屈折率を考慮した場合の反射率

それでは、このときの反射率を求めてみよう。反射率は \rhoの大きさの2乗を計算すればよいだろう。つまり

  \begin{aligned}
\displaystyle R=|\rho|^2&=\rho\cdot \rho^*\\
&=\frac{n_1-n_2+i(k_1-k_2)}{n_1+n_2+i(k_1+k_2)}\cdot \frac{n_1-n_2-i(k_1-k_2)}{n_1+n_2-i(k_1+k_2)}\\
\\
&=\frac{(n_1-n_2)^2+(k_1-k_2)^2}{(n_1+n_2)^2+(k_1+k_2)^2}\\
\end{aligned}


前回紹介した垂直入射での反射率は\ k_1=k_2=0\ の条件だった。今回得られた式から、反射率は消衰係数 kにも依存しているということが分かる。具体的には、反射率は屈折率の差と消衰係数の差が大きくなるほど上がるといえる。


反射光と透過光の位相変化

屈折率が実数の場合、 \rho \tauも実数であった。そのため、反射光と透過光の位相変化は、入射光に対して0°(同位相)または180°(逆位相)に限られていた。一方、上の式で示したように、消衰係数も考慮すると、 \rho \tau複素数となる。複素数が入射電場に掛かると位相変化は、0°および180°以外の値もとりうる。これは薄膜干渉などを考えるときに忘れがちなので、しっかり覚えて使える知識にしておこう。