フレネル係数で遊ぶ2:ななめ入射での反射率と透過率
ななめ入射での反射率と透過率は入射角に依存する。 また、s偏光かp偏光かによっても異なるふるまいを示す。
前回の記事では、垂直入射におけるフレネル係数について解説した。今回は、光がななめに入射した場合の反射と屈折について深掘りしていく。ななめ入射の方が実際的な応用が広いため、より役立ちやすいだろう。 casual-science-pedia.hatenablog.com
ななめ入射での反射率と透過率
まずは上の記事で紹介したフレネル係数を再掲する。
入射光がs偏光の場合は、
入射光がp偏光の場合は、
と表される。とを入射光の電場に掛ければ、それぞれ反射光と透過光の電場が得られる。
前回、解説したように、反射率を求める際は単純にフレネル係数を2乗すればよかった。つまり
s偏光の場合は、
p偏光の場合は、
と書ける。ここまでは単純である。
では次に、透過率を求めてみる。前回の垂直入射の場合では、透過率はの2乗に屈折率の比を掛ければ得られると解説した。しかし、実はこれはななめ入射の場合には当てはまらない。なぜなら、ななめ入射の場合、屈折が起こることで光の断面積が変化するからである。光の強度は単位時間に単位面積を通過する光エネルギーと定義されるため、この効果を考慮しなければ正確な透過率を求めることはできない。
この断面積の変化を図で解説すると以下のようになる。
この図では、屈折率が小さい物質から大きい物質への入射を考えている。この場合、光が屈折すると、画面に平行な方向の幅が伸び、断面積が拡大する。それぞれの幅を幾何学的に解けば、断面積が倍されることが分かる。
断面積の変化を考慮せずに得られる透過光の強度は、面積が小さい分だけエネルギーを損していることになるので、正しい強度を得るにはを追加で掛ける必要がある。 したがって、透過率は
と表される。 これで、ななめ入射の場合の反射率と透過率が得られた。垂直入射の場合と同様、となることは各自で確認してみてほしい。
p偏光とs偏光の反射率
ななめ入射での反射率と透過率が得られたので、この式に屈折率や角度を実際に代入して、どんな特徴をもつのかを見ていこう。透過率は反射率を1から引けば求まるので、ここでは反射率のみに注目する。屈折角はスネルの法則()を使って求められる。下図に、での、入射角に対するp偏光とs偏光の反射率を示した。
入射角を0度(垂直入射)から徐々に傾けていくと、反射率が変化していくことが分かる。さらに、反射率はp偏光かs偏光かによっても依存する。もう少し詳しく見ていくと以下のような特徴が挙げられる。
- s偏光の反射率はp偏光の反射率よりも必ず大きい
- 90度付近(浅い入射)では、反射率が1に近くなる
- p偏光にだけ、反射率がゼロになる入射角がある
s偏光の反射率はp偏光の反射率よりも必ず大きい この知識は光学の実験をする上ではとても重要である。光を扱う実験ではよくミラーなどを用いて、光を複数回反射させて、目的の場所まで光を導く。このとき、何度も反射させるたびに光が減衰してしまい、最終的に必要な光強度が得られないなんてことが起こりうる。そこで、光の偏光をs偏光として反射させれば、損失をより少なく光を遠くまで伝播させることが可能となる。
90度付近(浅い入射)では、反射率が1に近くなる このような表面すれすれの浅い入射を英語で、"Grazing incidence" (かすり入射)と呼ぶ。多くの物質のX線領域の屈折率は、空気の屈折率と同じくらいの値を持つため、X線は物質を透過しやすい。そのため、Grazing incidenceとすることで、X線の反射率を稼ぐといったことが、例えばXRR(X線反射率法)などで使われている。
p偏光にだけ、反射率がゼロになる入射角がある このような入射角を「ブリュースター角」と呼ぶ。ブリュースター角では、p偏光は100%透過するため、反射光はs偏光のみとなる。この性質は研究でも、日常生活でも役立つ場面が多い。詳細については今後の記事で解説する。