光の回折1:スリット幅と光の広がりやすさ《素元波》

Point

・光がスリットを通過したとき、スリットの幅が小さいほど光は広がりやすい
・光の広がりやすさは素元波の干渉で説明できる  


今回の記事では、光が障害物の裏側に回り込む現象である「回折」について紹介していく。光の回折を説明するための分かりやすい題材として、スリットを使った実験が挙げられる。この記事では、光がスリットを通過すると何が起こるのかをテーマにして、回折現象の直観的なイメージを与えていく。


スリットを通過した光

まずは、図を使ってスリット通過後の光の動きを見ていこう。図1のように、光がスリットを通過すると、光はスリットの幅以上に広がって伝わっていく。これが「回折」である。

図1:幅の異なるスリットを通過した後の光
そして、スリットの幅によって光の広がりやすさは変わる。通過するスリットの幅が大きいほど、光の広がり方は小さくなり、逆に、通過するスリットの幅が小さいほど、光の広がり方は大きくなる。



光の広がりやすさをどうやって説明するか

上述のように、スリット幅が大きいときは光は広がりにくく、逆にスリット幅が小さいときは光は広がりやすい。光学では、これらの回折現象を統一的に説明するための方法として「素元波(そげんは)」という考え方が使われる。素元波とはその名が示す通り、波の元となるものであり、物質で言うところの原子みたいなものである。原子が集まって物質ができるように、素元波も複数集まることで1つの合成された波を形成する。この合成波が実際に物理現象として現れてくると考えるのである。ちなみに素元波の形は、発生源を中心に波紋のように同心円状に広がる波をイメージしてもらえばよい。


文字だけでは分かりにくいと思うので、図を使って説明してみる。図3に、スリットを通過後に発生した複数の素元波を示す。

図3:スリットを通過後に発生する素元波
この図では、3つの異なる地点から発生した素元波が同心円状に広がる様子を描いた。これらが合成された結果を調べれば、スリット通過後の光の挙動を理解することができる。(※実際は素元波の個数といった考え方はせず、スリット上での積分を考えるが、今回は分かりやすさを優先する。)


図3では、半円状のあらゆる方向に進む波が一度に描かれているため、合成したらどうなるかパッと見でわかりづらい。そこで図4に、角度の違いによって3つの素元波がどのように干渉するかを表すアニメーションを示した。

図4:角度を変えていったときの素元波の干渉
わかりやすさのため、3つの素元波は異なる色で描き、振動方向は画面と平行な方向に表した。見ての通り、上方向に進む成分は波の位相が揃っているが、角度がななめになるにつれて位相がズレていくのがわかる。つまり、光が進む方向によって素元波の干渉の仕方が異なるのである。


特定の方向に進む波を取り出してみよう。 図5に、上方向に進む成分、ななめ方向に進む成分、さらにななめ方向に進む成分の静止画を示す。

図5:特定の方向に進む素元波どうしの干渉
前述のように上方向に進む成分では、3つの素元波の位相が揃っているため、強め合う干渉が起こる。この強め合いは上方向に進む光が生き残りやすいことを表す

次に、ななめ方向に進む成分を見ると、3つの素元波がななめになったことで、位相が少しだけズレていることがわかる。このため、これらを合成しても、上方向成分の場合のような完全な強め合いは起こらない。結果として、ななめ方向に進む光は上方向に進む光よりも生き残りづらくなる。

さらにななめ方向となると、位相のズレがかなり大きくなる。この状態で合成しても、ランダムな干渉となるため、光は打ち消しあって消えてしまう


以上から、光の進行方向が上方向のときに光は一番強くなり、上方向から傾くほど、素元波どうしの打ち消し合いによって光が弱くなるという結論が得られた。



スリット幅と光の広がりやすさ

それでは、この考え方をスリット幅と光の広がりやすさの関係に適用する。ここで、スリット幅は素元波の個数と関係していると考えてみよう。つまり、スリット幅が広いほど発生する素元波の数が多く、逆にスリット幅が狭いほど素元波の数が少ないといった風にイメージするのである。
 素元波の数が多いほど、より多くの位相のズレた波を合成することになるため、少し角度が傾いただけで打ち消し合いが起こりやすくなるのが想像できるだろう。そのため、まっすぐ進む成分がより残りやすく、ななめの成分はより生き残りづらくなる。こういった理由で、スリットの幅が広いほど光が広がりづらくなるのである。
 素元波の数が少ないほど、合成する波の位相のずれは小さくて済むので、ななめの成分は生き残りやすい。スリット幅の小さい極限では、図6のように、発生する素元波の数が1個だけといったイメージを持ってもよい。素元波とは同心円状に広がる波であるため、図6のように素元波が1つだけのような場合、どの方向にも同じ強さの光が伝わる。そのため、スリットが狭いときは、通過した光は大きく広がるのである。

図6:幅の狭いスリットを通過後に発生する1つの素元波


ここまで、素元波が1つや3つなど個数を具体的に与えて回折現象を考えてきた。しかし、厳密な計算をする際には、素元波が連続的に存在すると考え、素元波の個数などというものは本来考えない。しかし、スリットの幅が広いほど素元波の数が多いという考え方はイメージがつきやすいため、今回は直観的な分かりやすさを優先した。素元波同士の干渉を用いた考え方は、その他の回折現象を理解する際にも役立つため、今後の記事でも多用していく。